労働基準法とは
では、まず初めに労働基準法とはどのような法律なのか確認しておきましょう。
労働基準法の歴史は古く、昭和22年に労働条件に関する最低基準を定めるために制定されました。
賃金の支払の原則や労働時間の原則、時間外や休日労働などに関して基準となる内容を規定しています。
時代と共に労働環境や労働のあり方は変化しますので、労働基準法はこれまでも数回に渡って改正がされてきております。
労働基準法は、性質としては労働者を守るための法律であるため、従業員を雇う企業側は、その内容を正しく理解し守らなければなりません。
労働基準法に違反した場合、罰則が科せられるケースもございます。
改正の内容についても理解を深め遵守するようにしましょう。
働き方改革関連法とは
少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少が今後はさらに見込まれる現代社会。
労働者が多様な働き方を選択し、労働生産性を向上させる必要性が高まっております。
このような背景で働き方と労働生産性の向上を目的として2018年に公布されたのが「働き方改革関連法」です。
中でも、労働条件における最低基準を定めている労働基準法や、労働者を安全に衛生的な環境で従事させるための労働安全衛生法など、主要な法律も改正の対象となりました。
これまでに改正された労働基準法の内容
2018年、働き方改革関連法が公布、翌年に施行され、働き方について定める様々な法律の改正が進んでいきました。
ここではその中から、労働基準法の改正をピックアップし、近年行われた改正の内容を順にご紹介します。
2019年
時間外労働の上限が規制(大企業)
2019年4月、大企業を対象に時間外労働の上限が規制されました。
原則として月45時間・年360時間とされ、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできなくなりました。
また、臨時的な特別の事情がある場合は、以下の範囲内であれば時間外労働が可能です。
・年720時間以内
・2か月~6か月の平均80時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)
・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで
違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがありますので注意が必要です。
詳細は厚生労働省のサイトを参考にしてください。
参考)厚生労働省|時間外労働の上限規制有給休暇の取得義務(大企業・中小企業)
2019年4月、使用者は年10日以上の有給休暇が付与されている労働者に対し、年次有給休暇を 付与した日(基準日)から1年以内に5日の休みを取得させることが義務化されました。
対象の労働者には管理監督者も含みます。
また、使用者は、有給休暇の時期指定の際、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければならないこととされました。
詳細は厚生労働省のサイト、パンフレットを参考にしてください。
参考)厚生労働省|年次有給休暇の時季指定 参考)厚生労働省|年5日の年次有給休暇の確実な取得フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制も見直しがかけられました。
労働時間の清算期間の上限が1か月から3カ月に延⻑されました。これによってより柔軟な働き方の選択が可能となります。
ただし、清算期間が1か月を超える場合は、以下の点に注意する必要があります。
・清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないこと
・1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと
・労使協定を所轄労働基準監督署⻑に届出すること
詳細は厚生労働省のパンフレットを参考にしてください。
参考)厚生労働省|フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き高度プロフェッショナル制度の新設
2019年4月、高度プロフェッショナル制度(略称:高プロ)が新しく導入されました。
この制度は、⾼度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で⼀定の年収要件を満たす労働者を、
労働基準法に定められた労働規定の対象から外す制度です。
詳細は厚生労働省のパンフレットをご覧ください。
参考)厚生労働省|高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説2020年
時間外労働の上限が規制(中小企業)
2019年では、大企業を対象に時間外労働の上限が規制されましたが、中小企業は翌年の2020年に規制がはじまりました。
なお、建設業に関しては、業務の特性や取引慣行の課題があり、長時間労働をせざるを得ない傾向がございます。
よって、適用が5年間猶予されており、開始は2024年4月以降となっています。
詳しくは後述いたします。
2023年
残業割造賃金率引き上げ(中小企業)
2023年4月に施行された改正では、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられております。
従来も、大企業においては、60時間を超える時間外労働の割増賃金率は引き上げられておりましたが、2023年4月から中小企業においても大企業と同じく、50%の一律の割増賃金率となりました。
割増賃金率とは、労働時間を超えて働いた場合に通常の賃金に、乗じなければならない賃金の割合の事で労働基準法37条にて規定がされております。
法改正によって、一部の中小企業は場合によって人件費負担が大きくなるため、より一層の働き方改革やDXの推進が求められました。
給与のデジタル払いが可能に
また2023年の改正にて給与のデジタル払いの制度も解禁となっております。
給与(賃金)のデジタル払いとは、スマホのアプリなどでお馴染みの「○○Pay」といった手段を通じて給与を支払う仕組みのことです。
どんな電子マネーでも良いわけではなく、厚生労働省が賃金移動業者として指定した電子マネー等であれば、デジタルで給与を支払いうことができます。
改正労働基準法は建設業にどう影響する?
ここまで、労働基準法について最近の改正を順を追って解説いたしました。
では。改正において建設業に影響することはどんなことでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
【2024年4月施行】建設業にも時間外労働の上限が規制される
前述しましたように、建設業では時間外労働の上限規制に対し5年間の猶予が与えられていました。
しかし、いよいよ猶予期間が迫り、ついに2024年4月以降建設業でも時間外労働の上限規制がかかります。
建設業のほかに猶予対象となっている事業・業務は以下の通りです。
・自動車運転の業務(運送)
・医業に従事する医師(医療)
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業(砂糖製造)
詳細は厚生労働省のサイトをご覧ください。
参考)厚生労働省|時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務改正を受け建設業がやるべきこと
では、上記の改正を受け、建設業がやるべきこととはなんでしょうか。
順に見ていきましょう。
業務の効率化
まず一つ目は業務の効率化です。
時間外労働の上限規制がかかる以上、これまでのやり方のままでは業務を時間内に終わらせることは不可能です。
やはり、根本的な問題への対処が必要となります。
古い業務慣習を持ちやすいといわれる建設業では、デジタル化が進みにくいことが課題としてございますが、時間外労働の規制がかかったことで本腰を挙げて取り組む必要が出てきました。
業務効率化への対応としてまずおすすめしているのが、契約書などの事務的作業のデジタル化です。
近年では、「電子契約」という紙の書類での契約行為をデジタル化できるサービスが普及し始めていますので、そのようなツールを検討してみましょう。
業務上、相手先と契約を交わす場面が多い建設業界では、相手先から直接署名や捺印をもらわなければならない紙での契約行為が業務の妨げになっていることも事実です。
そのような課題を解決するツールとして電子契約が注目を集めています。
電子契約の仕組みについては以下コラムをご覧ください。
労働時間を適切に管理する
二つ目は、適切な労働時間の管理です。
時間外労働の上限規制がかかることで、管理者は現場の労働時間をこれまで以上にしっかりと管理する必要があります。
時に口頭で作業時間の報告を受けていたり、作業員の正確な残業時間を把握できていない場合は、これを機に管理体制を見直してください。
手作業で管理している場合は、記入ミスが発生する可能性もありますので、シフト管理ツールを検討してみるとよいでしょう。
労働者が定着しやすい環境
三つめは、労働者が定着しやすい環境を用意することです。
建設業は昔から3K(「きつい」「汚い」「危険」)といわれ、その過酷な労働環境がしばしば取り上げられています。
業務の特性上、雨の日は作業を中止としたり、決められた工期の中で作業を完成させなければならない為、時には土日祝関係なく作業をしなければなりませんが、そうした環境な上に、低賃金であるところも多く、そうしたことが新しい働き手が定着しない理由でもあります。
昨今では大手を中心に賃上げが行われていたり、国土交通省による「新3K」への実施が始まっていたりと、労働環境を良くしようとする取り組みが徐々に行われています。
今後このような流れに対応できない企業は淘汰される可能性もあり、企業は労働環境の整備に危機感を持って取り組む必要があります。
週休2日制の推進
四つ目は、週休2日制の推進です。
労働者の健康やワークライフバランスの保てる生活を守るためには、休日を増やし、働きやすい環境づくりを提供することが必要となります。
国土交通省では、そのような取り組みを応援するため、国交省の取り組み概要や、週休2日の実施状況等が紹介されています。
詳しくは以下ページをご参考ください。
余裕を持った工期設定
五つ目は、余裕を持った工期の設定です。
これまで、どちらかというと工期を中心に現場が働き方を合わせざるを得ないケースがほとんどでした。
しかし、労働基準法の改正を受け規制がかかる中、そうしたことも難しくなってきました。
工期の調整は請負側での努力だけでは改善できません。
発注者やその関係者側もタイトな要求をしない等、建設業界全体で働き方改革を推し進めていけるようにお互いに協力することが必要です。
【新様式】36協定様式の確認・提出
六つ目は、36協定の新様式の確認・提出です。
時間外労働(1日8時間、週40時間以上)をさせなくてはいけない場合、所轄労働基準監督署⻑に36協定を毎年提出しなければなりません。
この36協定ですが、改正を受け、新様式に変更されています。
もし提出する時期が来た場合は新様式で提出しましょう。
<旧様式からの変更点>
・オンライン申請に対応(押印や署名などが不要)
・特別条項の有無により様式を使い分ける(一般条項:様式第9号様式を使用、特別条項:様式第9号の2を使用)
・労働基準法の要件を満たしているかどうかのチェックボックス
なお、36協定の基本的な知識や、新様式についての詳細は以下コラムで解説しておりますので合わせてご覧ください。
専門機関への相談
最後は専門機関への相談です。
「改革への意識はあっても、どのように変えていって良いかわからない」とお悩みの方は多くいらっしゃいます。
そのような場合は思い切って専門機関へ相談してみるのも良いでしょう。
厚生労働省では「働き方改革推進支援センター」を各都道府県に設置しており、働き方改革の推進にお悩みの方への助言やサポートを行っています。
詳しくは以下をご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
労働基準法の改正に伴い、2024年から建設業にも影響がでます。
まずは、できることから始めていくことが必要です。
事務的業務から効率化を考えている場合は、電子契約サービスの利用を検討してみましょう。
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